盟友の退き際◆竹内康光【馬よ草原に向かって嘶け】



船橋の大ベテラン・石崎隆之騎手の引退が発表された。通算6269勝を挙げた63歳、アブクマポーロ(東海ウィンターS)やトーシンブリザード(フェブラリーS2着)とコンビを組んだ名手。栗東・山内厩舎のイシノサンデーとダービーグランプリを勝ったこと、WSJSに優勝したことも全国区の競馬ファン認知度に大きく影響したはず。

シャイな性格で多くを語らないタイプ、その意味では報道陣泣かせの面もあった。本人の名誉のために声を大にして言いたいが、決して気難しいタイプではなく本当にシャイな性格なのだ。また、多くの修羅場を乗り越えてきた男だからこそ、レースの安全性には人一倍の拘りがあった。

降着制度の変更には最後まで懸念を示していて、変更直前の船橋競馬で降着の事案があった時(被害馬に騎乗していたのは戸崎騎手だった)に、「ああいうのが降着にならないのは、騎手にとっては怖いことだよ。」とポツリ。物静かな男だが、強引な進路変更をした騎手を一喝したこともある。

川島正行厩舎の全盛期を苦楽をともにして支えた、佐藤隆騎手を落馬事故で亡くした経験もある。船橋では本多正賢騎手も落馬事故の後に、長い闘病の末に天に召されている。馬場の安全性にも一家言ある騎手会の重鎮で、戸崎騎手も技術だけなくその人柄を慕って沢山のアドバイスを受けていた。

内田博幸という騎手を育てたのが的場文男騎手なら、戸崎圭太という騎手を大成させたのは石崎隆之騎手。大井で大レースを勝った夜は、タクシーで馴染みの焼肉店に行き祝賀会。職業柄大食とはいかないが、戸崎騎手や山田信大騎手(現在は調教師)ら多くの仲間とともにテーブルを囲み、スタッフ全員を労う心優しい男でもある。

我が家の二人の息子にも大変よくしてくれて、特にJRAで開業する前の次男にはホースマンとしての背中を存分に見せてくれた。競馬とは違う世界にいる長男にも、重賞を勝つたびに「気持ちだから」とテレカやクオカをプレゼントしてくれた。ちなみに長男の「お宝」は、本物の(レプリカではない)石崎隆之の勝負服である。

こちらが年長ではあるが、船橋の騎手や厩舎スタッフに倣ってもう長い間「イシ兄い」と呼ばせてもらっている。今は亡き川島正行師が、ドスの効いた声で「イシ」と呼んでいたのも懐かしい。ジョッキールームに明日の新聞を届けに行っても、くわえ煙草のはにかんだ笑顔で迎えてくれる盟友の姿はもうない。

◆竹内康光【馬よ草原に向かって嘶け】
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