山を降りる◆竹内康光【馬よ草原に向かって嘶け】


7月に山野浩一さんが亡くなった。競馬ブックの合同フリーハンデの記事の書き手が変わっていて、「ああ、もう山野さんはいないんだなあ。」という実感がこみ上げる。大川慶次郎さんもそうだったけれど、生涯現役を貫いてあの世へと走り去っていった。仕事の量を減らしたりして、山を降りながらも裾野までは降りて来なかった。

翻って自分はテレビ解説の出番も減ったし、南関東重賞レビューも金子正彦元騎手に代わってもらった。山を降りている実感はあるがこのまま降り切ってしまうのか、正直わからない。ありがたいことに南関東版競馬ブックからは1年ごとに契約更新の打診があるし、青木義明さんも声をかけてくれる。しばらくはゆっくりと山を降りていこうと思っているが、競馬ブックから契約更新の打診がなくなったらそこが潮時という気もする。その時はスパッと競馬の仕事から足を洗おうか、若い頃から宿題にしたままの小説にチャレンジしようか。

南関東には元気に山を降りている60代トリオがいる。的場文男騎手、石崎隆之騎手、森下博騎手だ。乗り鞍・勝ち鞍ともにピークには及ばないが、的場文男騎手は重賞を勝つたびに最高齢重賞制覇記録を更新(現在は60歳11ヶ月)する。石崎隆之騎手も森下博騎手もオーナーから「乗って欲しい」というニーズがあって、現役を続けている。石崎隆之騎手の今年の連対率は27%、的場文男騎手をわずかだが上回っている。最後の重賞勝ちは2007年マルノマンハッタンの浦和桜花賞だが、もしこの後に勝てば最高齢重賞制覇記録は石崎隆之騎手のものに。2013年にはアステールネオで浦和桜花賞2着、老け込む気はさらさらない模様。お盆明けの川崎開催では3人揃って勝ち鞍を挙げ、的場文男騎手はスパーキングサマーCで重賞制覇。森下博騎手は単勝万馬券、石崎隆之騎手も7番人気の馬を勝たせて存在感を出している。

的場文男騎手はまだ山頂を睨んでいるようだが、石崎隆之騎手も森下博騎手もゆっくりと風景を楽しみながら山を降りている。野球の世界では松井もイチローも絶頂での引退を選ばずに、「山を降りる」選択をした。定年のない仕事は、自らが引き際を決める楽しさと難しさがある。

◆竹内康光【馬よ草原に向かって嘶け】
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