合田直弘さん、ありがとう☆「遅まきながらのセレクトセール回顧」◆合田直弘【Horse Racing Fanatic】


Horse Racing Fanatic  Vol.4 合田直弘


というわけで、誠に申し訳ございません。

何が申し訳ないかというと、前回の投稿から今回の投稿まで、またも2か月もの空白を生じさせてしまった。このコラムは今回で4回目になるが、ご愛読をたまわっている皆様ならば既にお気付きのはずだ。

そうです、はい、このコラムは4回連続で、冒頭はお詫びで始まっている。誠に申し訳ありません。

         ◇

前回のコラムで書かせていただいた予測が幸いにも的中し、JRHAセレクトセールはかつてないほど多くの外国人購買者が訪れてくれ、2日間の開催を通じて22頭を御購買いただいた。

それも、北米のウィンスターファーム、豪州のゲイ・ウォーターハウスといったビッグネームが、前者が5頭、後者が6頭という「まとめ買い」をしてくれたのだ。

ウィンスターファームのCEOを務めるエリオット・ウォルデンさんも、ゲイ・ウォーターハウス調教師も、ともに日本に到着して間もない段階でお話をさせていただいた時には、「今年は様子見」という雰囲気が、なくはなかった。いずれもセレクトセールは今年が初参加で、日本産まれの若駒を見た経験は全くと言ってよいほどなく、以前から興味をもっていたマーケットに足を運ぶことが出来たことをおおいに喜びつつ、まずは、どんなタイプの馬にどんな値段が付くのか、マーケットの動向を探ることに主眼をおいていた節が見て取れた。

ところが、馬の下見をし、主要な生産牧場を訪ねるうちに、「これなら…….!」と思ったようだ。

「これなら、相当額の投資をする価値がある」と考えたからこそ、ウィンスターファームは2億1200万円、ゲイ・ウォーターハウス師は1億3200万円もの金額を、日本のブラッドストック・マーケットに投じたのである。

2日目の午後に、グリーンチャンネルをはじめとしたメディアがウィンスターのウォルデン氏にインタビューした時のことだ。日本産馬を5頭も購買した目的について問われたウォルデン氏は、「ウィンスターファーム所有馬の、レベルアップに貢献してくれると感じたから」と答えている。

日本の血脈は今や、ケンタッキーの一流牧場が保有する血脈の水準を、上げる役割を果たせると、ケンタッキーの一流ホースマンが太鼓判を押してくれたのだ。このコメントに、マイクを向けていた筆者は、背中がゾクゾクしたことを覚えている。

ウィンスターが購買した5頭のうち、3頭は1歳馬である。改めて血統を記せば、父エンパイアメーカー・母ジョリーダンスの牡馬、父ハーツグライ・母ヒルダズパッションの牡馬、父エンパイアメーカー・母レーヴドフィユの牡馬の3頭は、8月に入るとまもなくケンタッキーへ向けて出国する手はずとなっている。来年以降、日本産馬活躍のニュースがアメリカから聞こえてくるのを、心待ちにしたいと思う。

エリオット・ウォルデン氏やゲイ・ウォーターハウス師だけでない。例えば、現在は社台スタリオンで繋養されているノヴェリストの生産者で、現役時代の所有者だったクリストフ・バーグラー氏も、今年初めてセレクトセールに参加し、ノヴェリストの初年度産駒の1頭を購買して話題となった。

そして購買者以外にも、セレクトセール初参加が関係者の間で大きな関心を呼んだ人物がいた。ケンタッキーから来た獣医師のウィリアム・レインボウ氏が、その人である。

レインボウ獣医は、心臓のエコー検査を行い、心臓の大きさや構造、心膜の厚さなどを測定。これまで蓄積してきたデータに照らし合わせ、検査した若駒が将来どの程度の心肺能力を持つことになるかを、査定するのである。古い話で恐縮だが、73年の3冠馬セクレタリアトが89年に亡くなった後に解剖をしてみたら。セクレタリアトの心臓は通常のサラブレッドの2.5倍の大きさがあったことが判明した。競走馬はアスリートゆえ、そのパフォーマンスと心臓の機能の間に密接な相関関係があることは間違いなく、レインボウ氏はその分野の研究では最先端を行っている獣医師のひとりなのだ。

ケンタッキーのせり市場などでは既に一般的になっている心臓のエコー検査だが、日本のセールでこれが行われたのは、筆者の記憶する限り今回が初めてだったと思う。関節のレントゲン撮影や喉のスコープと並んで、心臓エコーが日本の市場でも一般化するのも、そう遠い将来ではないかもしれない。



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