斎藤空也さん、ありがとう☆G1のそもそも・まとめ◆斉藤空也【22世紀の競馬を望む】

前回に安田記念・秋と書いたが、安田記念だけ局所的にやるのもマニアックすぎるので、今回はもっと大局的、戦略的な考察を並行していきたい。つまり、戦略的な制約となるリソースをまずは洗い出しておきたいのだ。

コースレイアウトとしても、歴史としても、日本のチャンピオンは東京競馬場の芝2400mを制した馬であることは間違いないだろう。ダービーとジャパンカップのダブタイトルは、世代1位であり、ワールドクラスであることをも証明する日本最高の勲章だ。
そして、連動性の高い菊花賞と天皇賞(春)のダブル。距離が1F異なるものの、3000m、3200mにおける競走馬に求められる資質は疑いない。このダブルはその勝者が強い馬であることを単純に証明する(ジャパンカップ等の結果にて明白)。

この両者に見られるような世代間連携が存在するタイトルは、相互の戦略的価値を高めていく非常に良いレースである。皐月賞のように古馬になって対応するタイトルがなかったり、天皇賞(秋)や有馬記念のようなトラックバイアスの存在が現場からもデータからも明瞭なレースは、G1の本質であるチャンピオンオブチャンピオンのレースとはならない。
極論を言えば、上記4レース以外は戦略的に白紙に戻すことも構想の段階では行うべきで手順である。

そして、そもそも、それぞれのG1における意味づけだ。
そのレースがどんな馬を対象に、どのような資質を問い、その馬の世界的な価値を証明するのかということは、G1を名付ける側に明白な責任がある。

東京芝1600、2400・1800、2500、2600、3400
中山芝外回り2200、内回り2000、2500
阪神芝外回り1600、1800、2400、3000、3200・内回り2200、3000
京都芝外回り1600、1800、2400、3200・内回り2000
中京芝1400、2000、2200
ローカルの各1200m、2000m

芝のチャンピオンを決定するうえでは、これらのコースを上手に活用することが問われる・・ということである。わかっているという向きもあるかもしれないが、実際にはどうだ。スプリント路線が明確化してきた昨今、安田記念の前哨戦における京王杯SC・G2の価値は、トライアルの結果が本番に直結しないという意味で下落の一途を辿っている。
右回りのマイラーズCや中山記念、大阪杯からの直行となる時点でトライアルの整備がなってないと言われるのは自明の理だろう。これらは戦略眼や戦略的動機、現場の観察が欠けているなによりの証明だ。
そして、そもそもだが、桜花賞やNHKマイルCが安田記念やマイルCSにつながらないというのは、そのG1に何かの欠陥があるという結果ともいえるのだ。この結果に関しては、真正面から向き合うことが不可欠といえよう。
例えば、秋の番組に関しての思考をスタートさせるならば、まずは12月香港に対する戦略的な位置づけを明確にする必要があることは指摘できる。日本のチャンピオンがこのシリーズに向かうことをスケジュールとして当然とするかどうか。特にマイルとスプリントはこの戦略的な決定なくして番組は成立しないはずだ。

スプリントでは、稀有の至宝ロードカナロアやかつてのタイキシャトル、サクラバクシンオー級を例外とすれば、香港のスプリント路線は日本より質的上位を認めざるを得ないし、そもそも日本では最初からスプリンターとして生まれ育つ馬は皆無だ。
であれば、戦略的には最初から日本で1200mのG1を年に2回行う必要そのものがないと判断し、選択することも充分に起こりうる。
この場合、香港スプリントの前哨戦として11月上旬に一つだけ1200mのG1を行い、上位馬が遠征を行うと言うミニマムのパッケージで十分ということになる。この場合、京都内回り1200mと福島の1200mが選択に際し、フラットに判断されるべきだろう(京都の超高速馬場は海外の洋芝にマッチしないのでは?と考えるべき)。
こういうケースで春前半のスプリンターはどうするんだ~という一見公平そうな不公平話が出てくるのだが、これはなぜダート1200のG1がないのかという結論と同じである。
現在の日本競馬ですべてのカテゴリーでチャンピオンを生産することは出来ない。であれば、ターゲットとカテゴリーは明快にされるべきで、春夏シーズンはそれこそ海外遠征や距離への挑戦にあてられるべきである。
少なくともトップスプリンターであれば、京王杯SCで勝ち負けを演じるくらいのパフォーマンスは見せられるはずで、そうでなければチャンピオンの資格がないということである。そこを救済することが、決して競馬の優しさとはならないはずだ。

マイルに関しても同様。ここで本題にようやく戻るのだが、香港マイルの直前かつブリーダーズカップマイルの直近に行う日本の同格マイルG1として
「京都1600mはベストなのか?」
という考察は必ず行われなければいけない。東京1600mが相応しいのであれば安田記念を秋に行う可能性もあるし、阪神マイルにより連動性の高さを判断するのであれば、11月の開催を阪神で行うことも検討すべきだ(9、10月京都、11、12月阪神)。幸いにして12月後半は阪神でのG1はないし、11月に阪神開催となれば前例のケースで阪神内回り1200mでのスプリンターズSも視野に入るだろう。

概ね、現在の日本社会における課題でもあるが、構想し、判断し、行動すべき人が戦略眼、戦略視を欠き、数字を作り、言い訳の言い訳で出来た虚飾を貼り付ける。それが物事を本質から逸らし、人々の共感から遠く外れ、ファンが減少していく原因となっている。
現在の中央競馬も、まさにこの「病」の只中にあるのだ。


◆斉藤空也【22世紀の競馬を望む】
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