斎藤空也さん、ありがとう☆安田記念に見るG1のそもそも②◆斉藤空也【22世紀の競馬を望む】

さて、当コラムの課題となっている今年の安田記念では、除外と言う最大の強敵を免れたモーリスが圧勝を遂げた。この馬が「除外候補」となった状況をつくったことに関して、競馬に携わる全員が解決すべき課題と意識する必要があることをまず再確認し、今月のコラムを始めたい。

現在、東京の芝1600mでは年間に3つのG1が開催される。
安田記念、NHKマイル、ヴィクトリアマイルという構成で、この3つが春の同時期に行われ、NHKマイルとヴィクトリアマイルは事実上の安田記念のステップとして番組編成されているといえるだろう。

つまり、俯瞰の視点からこの状況を見ると、この番組編成によってJRAは「NHKマイルとヴィクトリアマイルは、本当はG2格のレースなんです」とアピールしているに等しいと見つけられるだろう。だって、ステップレース、トライアルレースにすぎないのだから!

当然、ファンは無意識にもそう感じるし、関係者だって安田記念との格の違いは認識しているのは実際だ。だから、NHKマイルやヴィクトリアマイルが盛り上がらなかったり、G1の箔をつけやすいEASYG1として認識されてしまうのであれば、それは全てこの番組構成にこそ原因があるのだと言うことは認識すべき重要課題である。

つまり、この組み合わせ自体も本来は見直されなければいけない必須要件なのである。G1をただ並べれば売れるという思考は、もはや20年遅い。

安田記念に限らないが、G1レースを真のG1として構成するうえで重要なことは、しかるべき馬がしかるべきステップを踏み、言い訳なしの全能力を出し切るような環境条件が整えられていることであるし、そうした真のレースこそ参加意欲を産み、売り上げを向上させるのだということを主催者は理解すべきだろう。

その視点に立つと、安田記念(春の東京開催で行う前提として)にとって最重要なレースがあることに気付くはずだ。それは国内ではない。

ドバイ(ドバイターフ)と香港(クイーンエリザベス二世C)である。

3月末に行われるドバイ、4月後半に行われる香港。日本からの遠征馬も少なからずいる両レースだけに、帰国後に迎える安田記念や宝塚記念は連動してこそ相乗効果を生む。もともとマイル~中距離は斤量差を適正に設定すれば牝馬が牡馬と伍して戦えることが多い距離でもあり、そこでの最善はきちんと追求すべきポイントだろう。

その視点から、個人的には賞金編成を元に戻し、5月後半に安田記念を設定。ドバイ、香港、日本と1800、2000、1600のG1におけるポイント制国際シリーズでの運営を提案したい(やはり、開催半ばでの賞金体系変更は抜本的無理がある。新馬戦は新馬戦で行えばよいのであって、とってつけたように夏競馬モードに変更する必要はないはずだ)。

また、この春のアジア3冠では1600~2000の距離で世界クラスの評価を得ることを可能とするだろう。ステータスの高い真のG1にこそ強者が集い、人気を集め、売り上げに反映される。ファンの目を馬鹿にしてはいけないし、日本の競馬はファンこそがステークスの最大オーナーであることを忘れてはいけない。

そして、あわせてヴィクトリアマイルの秋移動によるエリザベス女王杯との差し替えを提案したい。もともと秋には天皇賞(秋)、ジャパンカップという2000、2400の最重要レースがあるのに、エリザベス女王杯はその間に組まれていて天皇賞(秋)にもジャパンカップにもつながらない2200mのG1である。

この為、牝馬がG1タイトルの名前と賞金を得る為だけに、天皇賞(秋)やジャパンカップに挑むべき牝馬がこれまで何頭も「実を取る」という名目でエリザベス女王杯に向かってしまっているわけで、戦略的視点からはこれは日本競馬における逸失でしかない。最高のレースに最高のクオリティを出せなければ、その戦術は正しくないのだ。

加えて、3200mという距離はサラブレッドの牝馬にとって過負担な距離であることも最近の研究では示されてきているし、経験則的にもこれまでの天皇賞(春)の歴史を見れば一目瞭然だろう。7月に宝塚記念が行われることを考慮しても、春に行われるべき牝馬限定G1はマイルではなく2000m(京都)か2200m(阪神)のG1であるはずだ。

NHKマイルCに関しては、個人的に安田記念との連携はどちらでも良いと判断している。レースそのものとしては明らかにダービーのトライアルとしても機能しており、現状の中2週換算ではなく、皐月賞から中三週、ダービーまで中3週の位置を、よりキープすべき部分ではないかと捉えている(例えば今年は4月19日・皐月賞、5月10日・NHKマイル、5月31日・日本ダービーだったが、4月12日・皐月賞、5月10日・NHKマイル、6月7日・日本ダービーのパターン。そのケースであれば、安田記念は5月31日or 30日となり、NHKマイルからの中2週を選ぶか、中3週でダービーに向かうどうかは各陣営の判断に委ねればよい)。

*次回は安田記念の秋(他シーズン)移動はありえるかを考察してみたい。

◆斉藤空也【22世紀の競馬を望む】
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